歴史を伝える有形文化財と木の温もりに包まれる新たな憩いの場
伝兵衛蔵が位置するいちき串木野市湊町には、国の登録有形文化財に指定されている建物があります。それが4月から一般公開された「市来大迫家住宅」。築100年を超える住宅には、大正期ならではの意匠や文化が今も息づいています。さらに同じ4月には、隣接地に「ミュージアムカフェ 舟」が誕生。今回は学芸員の大薮茉奈さんにご案内いただき、それぞれの魅力をたっぷり伺いました。
最初に訪れたのは「ミュージアムカフェ 舟」。建物はすべて木造で、使用する木材はオーナーが所有する山に植林された杉やヒノキ。敷地内にはウッドチップが敷き詰められ、一歩足を踏み入れると木の香りに包まれ、心がほっと癒されます。
こちらのカフェは、「歴史をもつ市来大迫家住宅を後世に残したい。そして多くの人に知ってもらうきっかけを作りたい」という思いから作られたそうです。住宅が“学び”の場であるのに対し、カフェは“憩い”の場として多くの人に親しまれるよう工夫されています。
また、店先の大きな「薩摩型和船」も見どころのひとつ。大迫家はかつて甑島で大型定置網の網元を家業のひとつとしており、伝統的な和船とも深い関わりがありました。展示している和船はこのカフェのプロデューサー砂田光紀さんが、和船技術を記録に残すために、船大工の吉行昭さんらと造られたものです。実物を間近で見学できるほか、店内に設けられた解説パネルを通じて、和船の文化や魅力を学ぶことができます。
さらに店内のあちこちには、海や舟をイメージしたステンドグラスが配置されています。なかには、串木野ならではの東シナ海に沈む夕日をモチーフにしたものもあり、訪れる人の目を楽しませます。
店内にはほかにも、テーブルに花が添えられた席や、庭を眺めながらゆったりと過ごせる席など、インテリアの工夫も随所に光ります。2階では、オーダーした料理が手動のエレベーターで届くというユニークな仕掛けも。どこに座っても穏やかな時間が流れる、心地よい空間が広がっています。
現在カフェでは、軽食ランチとカフェメニューを提供中。取材時には夏野菜を使った涼やかな一皿が登場しており、季節ごとにメニューは変化していくとのこと。文化と歴史を感じながら、心身ともに満たされるひとときを楽しめるお店です。
100年を超える時を刻む「市来大迫家住宅」
続いて足を運んだのは、隣接する「市来大迫家住宅」。正面玄関から入ると、広大で美しい庭園が広がります。築100年以上のこの住宅は、石堀と堀沿いの松の木が防火壁となり、戦時中も焼失を免れたそう。現在は所有者の次男・大迫大一郎さんが管理されています。
1916(大正5)年に建築された大迫家住宅は、「天井・建具・欄間に繊細な意匠を見せる」と評価を受け、国の有形文化財に登録されました。その評価どおり、内部には大正時代の美しい建築技術が髄所に残されています。
特に三の間続きの「表の間」は、冠婚葬祭や祝宴の場として用いられてきた格式ある空間。四季折々に変化する美しい庭園を望めるこの部屋は、1941年に明治天皇の孫・竹田宮殿下が宿泊された場所でもあり、当時の貴重な資料が展示されたコーナーも設けられています。
外に出ると、大きな土蔵がギャラリースペースとして活用されており、江戸時代の薩摩の絵師・木村深元による三幅対をはじめ、貴重な資料が展示されています。館内には大迫家の歴史や住宅についての解説パネルも設置され、当時の暮らしぶりに思いを馳せることができます。さらに外観には「ミュージアムカフェ舟」のロゴマークにもなった帆掛舟(宝船)の棟巴瓦が残されており、訪れた際はぜひ探してみてください。
串木野の文化と歴史を巡ることのできる「大迫家住宅」に「ミュージアムカフェ舟」。すぐ近くには、150年以上の歴史をもつ伝兵衛蔵もあります。ぜひ串木野の魅力を味わいに足を運んでみてはいかがでしょうか。
Information
【市来大迫家住宅】
住所:いちき串木野市湊町3-12
TEL:0996-36-2003
予約時間(事前予約制):1部10:30~ 2部 13:00~ 3部 14:30~
※それぞれ約1時間の解説がついてのご案内。
定休日:火曜、水曜、年末年始(祝日の場合は翌日振替)
見学料:700円(小学生以下は無料)
※お問合せ・予約は電話もしくはInstagramのDMにて受付
【ミュージアムカフェ舟】
住所:いちき串木野市湊町3-11
TEL:090-8665-0035
営業時間:10:30~16:30(LO 16:00)
定休日:火曜、年末年始(祝日の場合は翌日振替)