おや?職人たちが何かをかき集めているようです。砂遊びみたいで楽しそうに見えますが、もちろん遊んでいるわけではありません。これは焼酎造りの最初の工程・『製麹』(せいきく)という作業。蒸した米をある程度冷やしたあと、麹室という場所でこうやって種麹と混ぜて麹を造っているんですよ。
本格焼酎造りに欠かせないのが米麹
芋焼酎が生まれた江戸時代中期ごろからずっと、芋焼酎にはこの米麹が使われてきました。「焼酎の味わいを左右するのは麹と蒸留」と言われるほど、焼酎と米麹は切っても切れない関係なんです。だから製麹という工程は、焼酎造りにおいてかなり大切! 製麹は、米と種麹をただ混ぜればいいという単純なものではないんです。
製麹において一番のポイントは、米にまんべんなく菌を生やすようにかき混ぜること! ムラがあると、芋焼酎の魅力である軽やかな甘みが出ないんです。それに、こんなに大量の蒸し米を熱い内に広げて、麹造りに最適な温度になるまで冷ますのですから、かなりの重労働のはず。職人は暑さと闘いながら、丁寧に混ぜていきます。
そういえば、清酒にも米麹が使われていますよね。でも、清酒の麹と焼酎麹は全くの別物なんですよ。香りを嗅ぐとわかるのですが、清酒の麹はほんのり甘く、焼酎麹はとっても酸っぱい! この酸味の正体は、クエン酸。クエン酸は、保存食によく使われるお酢やレモンに入っている成分。ということは…。
鹿児島の温暖な気候で、もろみを腐らせることなく安全に発酵できるのは、クエン酸が雑菌の繁殖を抑えてくれるからなんです。米麹ってエライでしょ? でも米麹の役割は、それだけじゃありません! 清酒の麹と同じように、焼酎麹もさつまいものデンプンを糖分に変える役割を果たしています。え?それってどんな意味があるの? 焼酎は酵母があれば造れるんじゃないの?
答えは、「ノー」。実は、酵母はデンプンを直接アルコールに変えることはできないんです。そこで、酵素の力でデンプンを糖分に変えて、酵母が食べられる状態にするのが米麹の役割ってわけ。これは清酒用の麹も同じなんですよ。酵母にとって、米麹はいわば心強い助っ人のような存在といえます。