「米」と「麹」と「さつま芋」。伝統の味と技、心を守る蔵人たちにとって、もう一つ大切なものがあります。それは、かつて蔵を守ってきた先人たちの知恵によって切磋琢磨され、淘汰されてきた蔵人たちの技が宿る道具たち。それらを巧みに使いこなして、本格焼酎に命を宿す蔵人たち。「物」と「者」、そのどちらが欠けても、本格焼酎はでき上がりません。明治元年の創業ならではの焼酎造りを継承する伝兵衛蔵に伝わる、先人たちの知恵と蔵人の技が宿った道具たちの世界へようこそ。
時代を超えて選ばれた物たち。
徹底的に機能を磨かれた道具たちは、いつか用の美ともいうべき時代を超越した美しいシルエットを持つようになります。写真のダキダル(暖気樽・左)とレイオンキ(冷温器・右)は、SF映画に出てきてもおかしくない、近未来的でお洒落な外観を持っています。どちらも醪(もろみ)の温度を管理するための道具たち。お湯を入れて温める道具と、氷や冷水を入れて冷す道具。ほかにも興味深いシルエットが印象的な本格焼酎造りの道具たちを、いくつかご紹介します。
写真左/掻板(カキイタ・左)は麹室に乗せた米をまんべんなく広げたり、かき集めたりするもの。ブンジ(分司・右)は蒸米を掘り起こしたり、麹の切り返しに使います。写真右/コマ(独楽)は甑(こしき)の底の蒸気坑の上に置いて、蒸気を均等に分散させるための道具です。子どもの玩具の独楽に似ていることから、コマと呼ばれています。
写真左/ムロブタ(室蓋)は、麹を盛り込む箱形の容器。一枚に約一升(1.5kg) を盛り込み、麹菌を繁殖させます。重ね方をずらすことで温度管理をします。写真右/コシキ(甑)は麹米やさつま芋を蒸す大型の桶。大釜の上にコシキを乗せて、底板の中央にあけた穴から釜の蒸気を取り入れます。この時、蒸気をコマで分散させます。
写真左/麹室の床に広げた蒸米にモヤシ(種麹)を均等に振りかけるための箱形の容器、モヤシフリ(もやし振り)。底に目が小さな網が張られていて、その穴からモヤシが拡散します。写真右/カイボウ(櫂棒)は長方形や六角形、半円形などの板に、長さ156〜187cmの竹の柄を付けたもの。もろみを混ぜる時に使用します。
今回、ご紹介した焼酎造りの道具たちは、いずれもいちき串木野市湊町(旧日置郡市来町)に明治元年創業した「焼酎蔵薩洲濵田屋伝兵衛」内の「伝兵衛ミュージアム」で、実際にご覧いただくことができます。長年に渡り培われてきた、濵田屋の蔵人たちによる焼酎造りを支えてきた道具たちに出会うことで、本格焼酎の味わいはより豊かな格別の一杯になるでしょう。伝兵衛ならではの蔵独特の優しい香りの中、蔵人たちの情熱と誇りに触れるひと時。ぜひ、ご来蔵ください。