約二千二百年前、中国の秦の時代。栄華を極めた始皇帝にもたったひとつだけ手に入らないものがありました。それは、不老不死という人類不変の夢。そんな始皇帝の願いを叶えるべく、はるか東方にあるというユートピア、蓬莱の国を求めて旅立った人物がいます。彼の名前は、徐福。神仙の術に通じていた徐福が辿り着いたのは、いちき串木野市のとある霊峰。その景色のあまりの美しさに感動した徐福は自らの冠を解いて頂上に捧げ、その日から霊峰は冠岳と呼ばれるようになったという故事が今に伝わっています。
霊峰冠岳の伏流水は徐福が出会った妙薬!?
不老不死の霊薬を求めて徐福が降り立った冠岳は、数々の薬草の自生地として古くから知られ、南九州古代山岳仏教の発祥地、真言密教開祖の地としても知られています。東岳、中岳、西岳の三つの峰からなる冠岳の姿は、遠くから眺めると貴人が被る風折烏帽子のようにも見えると言われ、その美しさは三国名所図絵にも記載されています。冠岳の豊かな自然と景観を形づくっているものは、豊富に流れる清浄な水。中でも冠岳の伏流水は霊水とされてきました。徐福が出会った不老不死の妙薬は、冠岳の清浄な水そのものだったのかもしれません。
写真左/徐福を縁とする中国との親交が深いいちき串木野市では、冠岳周辺に中国文化との交流の架け橋となる数多くの施設を設けています。「蓮苑」は湧水を利用した亭や洞門からなり、初夏から夏にかけて花に包まれます。写真右/中央の「冠嶽園」は徐福を顕彰するために建てられた蘇州の庭園を模した池泉回遊式の美しい庭園です。
写真左/冠嶽神社周辺は「冠岳史跡」として、いちき串木野市の文化財に指定され、神社背後仙人岩付近の草原は「仙人岩植物群落」として県指定天然記念物に指定されています。山道に咲くシュンランもかつては薬草として尊ばれたものです。写真右/西岳の麓はそのまま串木野ダムに続き、冠岳の豊穣な水源を市に供給しています。ダム隣接の小水林間広場はアスレチックの遊具や草スキーの施設があり、春には千本の桜の花で包まれます。
冠岳展望公園(徐福公園)には、石像としては日本一の徐福像が立っています。この像は市政50周年を記念して建立され、中国の秦皇島市には徐福の帰りを待ち望む始皇帝の像があり、これと向きあうようにして建てられているそうです。また、いちき串木野市の「市来」という地名は、徐福の別名の徐市(じょふつ)に由来し、「徐市が来た町」という意味があると言われています。徐福が辿り着いた蓬莱とは、薩摩の人々の暖かい人情だったのか、冠岳の伏流水だったのか、今となっては想像するしかありません。今宵、その伏流水で仕込まれた『古式有機原酒 なゝこ』でも嗜みながら、弥生の日本に思いを馳せませんか。
Information
冠嶽園
鹿児島県いちき串木野市冠嶽13511-7
TEL:0996-32-0760(冠岳交流センター)
開園時間:9:00~17:00
入園料:無料
休園日:月曜日(祝日の場合は翌日)
駐車場:有
冠岳展望公園
TEL:0996-32-5256(いちき串木野総合観光案内所)
入園料:無料
休園日:無休
駐車場:有
小水林間広場
鹿児島県いちき串木野市生福7914-3
TEL:0996-32-3111(いちき串木野市観光交流課)
入園料:無料
休園日:無休
駐車場:有