端午の節句に、こいのぼりと共に揚げる「五月のぼり」。男児が生まれたことを天の神に告げその守護を願い、家紋と名前を入れて空高く立てられる五月のぼりは、武者絵のぼり、節句のぼりとも呼ばれ、その工程のほとんどが手作業で行われます。いちき串木野市の『亀崎染工』は創業146年、鹿児島県伝統的工芸品指定店に認定されている五月のぼりや大漁旗の名店です。5月の節句を前に作業のピークを迎える亀崎染工の作業場をお訪ねしました。
伝統を求め県外からもネット注文。
餅粉とぬかで作ったのりで、そのまま布に下絵を描き、色塗り、熱乾燥、水洗い、天日干し、染め付け、名前入れと、およそ20工程を繰り返していく完全な手作業の五月のぼりは、全国でも年々、職人たちが減っていき、今や貴重な工芸品になっています。住宅事情の変化で大量生産の小型のぼりが増えていく中、伝統的な手作業や古典的な絵柄を求めて、近年は県外からインターネットで注文してくるお客さんたちも増えているそうです。
写真左/のぼりに欠かせない家紋は、あらかじめカットしたシールを細かい絹目のスクリーンに張りつけ、シルクスクリーンの原理で一気にのりを打っていきます。写真右/写真はピンと張った布に、直接絵を入れている会長の洋一郎さん。2人の息子さんたちと一丸になり、1シーズンに150〜200本というオーダーをこなしていきます。
写真左/一枚一枚、微妙に表情が違う仕上がりは手作業ならではのもの。温かみのある色合いと、職人の個性が光る力強い文字も、五月のぼりを構成する重要な要素の1つ。写真右/のりで絵柄や文字の輪郭を描いたら、砂を一面に振りかけていく。砂が定着した部分には顔料が染まらないため、布地の白い輪郭の部分がそのまま残ります。
写真左/色塗りが終わり、熱乾燥された五月のぼりは水洗いして撥水作業を施しながら、天日干し。庭で働くのは社長の弟さん、家族のチームプレイが伝統を支えています。写真右/五代目社長の亀崎昌大さんは、学校卒業後、他の染工場で修行を積んだ後、串木野の実家に戻って家業へ。今は父である会長や弟たちと共に伝統を守っています。
「昔ながらの手法に忠実に、手作業で作り上げていく五月のぼりは、実際に立てたときに勇壮で見栄えがするようにできています。大切な我が子や孫に、すくすくと元気でたくましく育って欲しいという願いを込めた、祝い事にふさわしい五月のぼりに仕上げたいといつも思っています」と現社長の昌大さん。青空にたなびく伝統の技が詰まった五月のぼりを家族でゆっくり眺めながら、家族全員の健康を祝して乾杯。そんな平和な時間を過ごせたら素敵ですね。
Information
亀崎染工有限会社
鹿児島県いちき串木野市旭町156-1
TEL:0996-32-3053
営業時間: 9:00~20:00
定休日: 日曜日・祝日(2月〜4月は無休)
駐車場:有