古くからマグロ漁業の基地として栄え、日本のゴールドラッシュを支えた金山の町でもあったいちき串木野市には、もうひとつ意外な顔があります。それは、鹿児島県内で最も早く自家焙煎の本格的な珈琲店が生まれた場所だということ。「鹿児島の自家焙煎は串木野から始まった」と言われる程、ここには古くから自家焙煎の珈琲屋が存在します。それは、この町が元来持っている世界に拓かれた目と進取の気質の証しかもしれません。珈琲堂Jamaicaもまた、串木野、そして鹿児島全体の珈琲文化を牽引して来た、県を代表する自家焙煎の名店です。
九州の珈琲文化は串木野の町から始まった。
市内や県内はもとより、時には遠く名古屋や東京からもお客が訪ねてくるという珈琲堂Jamaicaは、鹿児島の自家焙煎珈琲の礎を作った串木野珈琲の老舗喫茶店です。お店の玄関に掲げられた「いりたて・ひきたて・たてたて」という看板の言葉が示す通り、一粒一粒欠点豆(死豆など)をハンドピック(生豆・焙煎豆)し、各国産珈琲の甘味と旨味を最大限に引き立てるためにこだわって焙煎。珈琲に最も適した温度で、丁寧に布フィルターでドリップされた一杯は、珈琲豆本来が持っている豊潤な甘さに誰もがびっくりしてしまうはずです。
珈琲堂Jamaicaの藤田さんは、学校を卒業後、大手乳業会社の会社員として神戸の西宮に勤務。サラリーマン時代、社内にあったアイスクリームと珈琲の店が大好きで、休憩時間をよくそこで過ごしたといいます。そんな中、住んでいた町の駅前にあった「喫茶調理専門学校」の看板が目に留まり、会社帰りに1年間通学。終了後間もなく退社し、鹿児島にUターン。天文館の有名喫茶店で3年間店長を務めた後、郷里串木野で独立します。個人の専門店は、まだ県内でも珍しかった時代。自家焙煎技術について教えてくれる人も文献もなく、手探りでのスタートでした。
写真左/店内に入ると、右手に焙煎室。昔ながらの半熱風式の焙煎器は、最後の余熱で仕上げて行くので、一気に温度が下がってしまう直火式の焙煎器に比べて豆本来が持っている旨味、特に甘味を引き出すことができます。写真右/マダムの手で生けられた季節の花、使い込まれたカウンター。串木野から大都会に働きに出た人たちも、帰省するといちばんにこのカウンターに座って珈琲を飲むといいます。そんなエピソードに納得してしまう和みの空間もまた、美味しい珈琲をいただく要因のひとつかもしれません。
写真左/ジャマイカという店名が示す通り、ここでは多くの国から多種多様なコーヒー豆が届けられます。ブラジル、タンザニア、マンデリン、コロンビア、ガテマラ、モカ…。積まれた珈琲豆の名前を読んでいるだけで、心はもう世界を駆けている気分です。写真右/ゆったりと静かな時間を過ごした後には、美味しい珈琲豆を買って帰ることも可能。とても、マスターのようにうまくは淹れられませんが、Jamaicaの味を自宅でも楽しめるのは貴重です。メールでの販売にも対応してくれるので、今では遠くにいてもJamaicaの味に触れることができるようになりました。
珈琲堂Jamaicaは朝9時のモーニングサービスから始まって、お昼にはスパゲティなどの軽食も食べることができます。珈琲と同じくらい人気があるレアチーズケーキのセットを目当てにやって来る女性たちも多いそうです。少しずつ変わっていく町の景色を見守りながら、凛とした佇まいで変わらない珈琲の味とホスピタリティを届け続ける珈琲堂Jamaica。本格的な焙煎珈琲や、本格焼酎をゆっくりと嗜む落ち着いた時間。そんなゆとりを持てる”平安な時間と環境”をいつまでも大切にしたいと思います。
Information
珈琲堂Jamaica
鹿児島県いちき串木野市高見町20
TEL:0996-32-0709
営業時間:9:00~19:00
定休日:第1・3・5日曜日
駐車場:有