本土からいちばん近い離島、国定公園に指定されてまもない甑島に、豆腐一丁から街=島の風景を作るユニークな豆腐屋さんがあります。場所は甑島の玄関口、里港から徒歩10分。玉石垣が美しく積み上げられた里の武家屋敷跡の路地に入ると、そのお豆腐屋さん「山下商店甑島本店」が見えてきます。
毎日を特別な日に変える豆腐屋さんを訪ねて。
実は今から11年前、静かな離島にたくさんの若者たちが集結したことがありました。「甑アートプロジェクト」は島外の学生やアーティストたちが島へ来て、空き家や学校で滞在制作を行ない、島民自身は当たり前だと思っていた島の生活や自然の貴重さを改めて感じてもらう場を生み出すことを目的としていました。甑島出身の山下さんも、実はその時のメンバーのひとりでした。
山下さんはJRA日本中央競馬会競馬学校中退後、キビナゴ漁船の乗組員を経て、京都造形芸大の地域デザインコースへ、そして帰郷。「島が好きだからUターンではなくて、島が好きになりたくて戻ったんです」。島の長所も短所も含めて、全部認めて好きになろう。その時、ふと思い出したのは実家の両隣にあった豆腐屋さん。「湯気が立ち込める中で働いているおばあちゃんの姿」。土曜の朝、ボールを持ってお使いに行くのが、山下少年の日課。朝の光と湯気が交差する中で見た、たくさんの笑顔…。
写真左/甑島の美味しい風景をつくる山下商店では、豆腐だけでなく、新しい島の特産品もたくさん取り扱っています。写真右/出来立ての豆腐を味わうだけでなく、デザートや限定の麻婆豆腐丼も味わえる店内。土曜の夜は、不定期でシマバルというイベントも開催します。
写真左/玉石垣の路地を入ると、今でも現役でレトロな郵便ポストが! 島のあちこちで、ホッとする風景に出会います。写真右/里武家屋敷跡は、江戸時代の郷士たちの家が建ち並んでいた当時にタイムスリップした気分に…。
山下商店の新たなチャレンジは、宿泊施設。以前は船宿だった施設を島のおばあちゃんから引き継いで「藤や」をオープン。やはり、甑アートプロジェクトの一員だった上田裕子さんが女将になって、真心あふれる接客で評判。豆腐屋さんの経営ならではの、濃厚で美味しい豆腐料理も自慢です。宿泊客は、豆腐づくり見学にも参加できます。
写真左/海まで5分の「藤や」、朝ご飯の前に散歩はいかがですか? 花を付けたバナナの木や、空をかけるトンビ。海上に天日干しされる魚。忘れられない風景が続きます。写真右/朝6時から始まる豆腐づくり体験。「木綿」と「絹ごし」の製法の違いに驚き、できたての豆腐に舌鼓。
写真左/京都造形芸大で建築を学んでいた女将の上田さん。彼女のきめ細かで優しい接客でリピーターが急増中。写真右/アートで結ばれた島と本土の若者たちが、国定公園甑島に、優しさで縁どりされた新しい風景を作ります。
Information
山下商店 甑島本店
鹿児島県薩摩川内市里町里54番地
TEL:0996-93-2212
営業時間:カフェ6:00~18:00(L.O.17:30)/シマバル19:00~23:00(L.O.22:30 ディナーは要予約)
定休日:不定休
駐車場:有